昼下がりの領事(学生記者取材) Vol.9 ー 在大阪オランダ王国総領事館 ー

2026年

 2025年に開催された大阪・関西万博で、大きな人気を集めたオランダパビリオン(通称:オランダ館)。万博で実際に足を運ばれた方も多いのではないでしょうか。実はこのパビリオン、閉会後は私たちの学校がある淡路島への移設が予定されています 。

今回、同じ淡路島にあるAIE国際高等学校の私たちは特別なご縁をいただき、オランダ王国大阪総領事であり、万博政府代表も務めるマーク・カウパース氏へのインタビューを行いました。

インタビューに先立ち、総領事は私たちのために特別なプレゼンテーションをしてくださいました。その中で語られたのは、オランダが歴史的に「水」と戦い、巨大な堤防を築いて海から土地を取り戻してきた「干拓(ポルダー)」の歩みです 。その堤防は、なんと宇宙(月)から地球を見下ろしたときにも確認できるほどのスケールだと伺い、私たちは大変驚きました。

また、オランダの人々が大切にしている「Common Ground(共通の土台)」という考え方についても詳しく教えていただきました。これは、たとえ意見が異なっても、共通の目標のために協力し合うという精神です。この精神が、現代の農業やエネルギー問題の解決、そして今回のパビリオンのデザインにどのように活かされているのか、総領事は情熱を持って語ってくださいました。

プレゼンテーションを通じて、私たちはオランダの知恵と未来への情熱を身近に感じることができました。それでは、インタビューをご覧ください。

(取材日:2025年11月27日)

 

オランダと日本の関係について

ー 大阪万博終了後、オランダパビリオンを淡路島へ移設することに決めたのはなぜですか?

オランダ王国は万博の4年前から日本の企業や政府と繋がりを築き、2年前よりパビリオン再利用について協議してきました。その一社で、淡路島でホテル等の事業を展開し、多くのビジョンを持つパソナは、各国へパビリオンの同島への移転を提案していました。最終的には、万博以前から関係を築いていたオランダ王国とパソナの間で合意に至りました。

オランダパビリオンー夜はその美しさが際立った

ー 今回の大阪・関西万博で、オランダパビリオンが我々来場者に伝えたい、一番のメッセージとは何なのでしょうか?

それは、私たちは地球の所有者ではなく、あくまで「ゲスト(客人)」であるという視点です。今の大人たちは、気候変動や戦争、食糧不足などの多くの問題を抱えたまま、この惑星を次の世代に引き継ごうとしています。だからこそ、解決策を考えるためのインスピレーションを与えるのが私たち世代の責任です。その想いを形にしたのが、パビリオンのコンセプト「A New Dawn(新たな幕開け)」であり、世代を超えて協力するべきという願いが込められています。万博は世界の人々を結びつけ、1970年の万博のように、若い世代が新しい夢や刺激を受けるきっかけとなる特別な力があります。万博を通じて、皆さんが地球規模の課題に立ち向かうためのインスピレーションを得ること、これこそがオランダ館最大のメッセージです。

ー「A New Dawn(新たな幕開け)」には、具体的にどのような意味が込められているのですか?

そうですね。それば、世界の分断や環境問題などの多くの課題を抱える地球を次の世代に受け継いでいくときに、残すべき未来へのインスピレーション。「A New Dawn」とは、そのインスピレーションそのものであり、私たちが共に見つけ出すべき新たな解決策、そして誰もが分かち合える新しい未来を象徴しているのです。

ー オランダと日本の関係は400年以上も続いています。この長い友好関係を将来にわたって維持し、さらに強めていく上で、私たち若い世代にとっての「最大の課題」は何だとお考えですか?

日蘭の関係は約425年もの間、絶えることなく続く特別なものです。江戸時代の鎖国下においても、オランダは長崎・出島を通じて日本が世界を知る唯一の窓口でした。当時の学者は「蘭学」から医学や科学を学び、緒方洪庵らがワクチン導入や感染症対策に尽力した歴史は、今も両国の深い相互理解の基盤となっています。

現在、私たちは気候変動や食料安全保障、高齢化といった地球規模の課題に直面しています。農業やエネルギー分野に強みを持つオランダと、再生医療などの先端技術で世界を牽引する日本が手を取り合うことで、未来の解決策を共に生み出せるはずです。若い世代にとっての最大の課題は、この歴史ある信頼関係をしっかりと受け継ぎ、新たな分野で協力をさらに深めていくことなのです。

ー また、私たちのような若者は、両国の絆をより強くするためにどのように貢献できるでしょうか?

私が皆さんに伝えたい最も重要なメッセージは、「社会の一員として、待たずに行動してほしい」ということです。私は皆さんの世代にこの地球を託します。だからこそ、自分が何を望み、どんな未来を作りたいのかを自ら発信し、主体的に動いてください。年配の人が頼むのを待つ必要はありません。自ら解決策を見つけ、行動を起こしてください。

今の若い世代は、起業家や科学者として革新的な挑戦をしたり、文化・経済の分野でエネルギーに満ちあふれています。だからこそ、誰かに許可や依頼をされるのを待つのではなく、自らイニシアチブを握ってください。アイデアがあるなら会社を立ち上げ、研究案があるなら取りかかり、文化の発展に思いがあるなら自ら始めてください。そうすれば、オランダには同じ志を持って協力してくれる仲間が必ず見つかりますよ!

インタビューは和やかな雰囲気で行われた

 

持続可能性、環境、そして技術について

ー 2025年大阪・関西万博のオランダパビリオンのシアターを見て、持続可能な未来の美しいビジョンにとても感動しました。そのような未来を現実にするために、オランダでは具体的にどのような取り組みが行われているのですか?

オランダパビリオンは、公式テーマである「Common Ground(共通の土台)」のもと、得意とする水との関わりやクリーンエネルギーの分野を取り入れた展示で、多くの来場者を引きつけていました。水と共に生きてきたオランダは、持続可能な未来を実現するために、日本とも積極的に協力しています。 例えば、現代社会に欠かせない半導体の分野では、オランダと日本が共同で新しいソリューションを生み出しています。

ー オランダは、国土の多くが海面下に位置する低平な土地であり、過去に多くの水害に直面した経験から、古来より治水・干拓の技術を発展させてきた国だと聞いています。

はい、私達はいつも水と戦わなければなりませんでした。これが私達の歴史であり、それはDNAにも刻まれています。まず私達は水を遮断することからはじめ、その後、巨大な堤防を築いて海水を締め出し、土地を取り戻す、つまり干拓(ボルダー)を始めました。例えば、月の上から地球を見下ろすと、万里の長城が見えます。あれは巨大ですよね。一方オランダを見てみると、私達が築いた堤防も見ることができます。それほど巨大なのです。これらの堤防を築く偉業を成し遂げたことによって、我々はかつてないほど多くの土地を獲得することができました。

オランダの街並み - 運河がいつも身近に

ー オランダは世界有数の農業国だと言われています。何がオランダを農業大国に成長させたのでしょうか?また、オランダが世界に誇れる農業技術はありますか?

私達は小さな国ですから、常に世界の他の国々を見て、協力して大きな解決策を見つけることが非常に重要でした。そして、誰も夢にも思わないようなイノベーションを生み出す。私達は小さな国だからこそ、大きなアイデアを持たなければならない、と。そのアイデアの一つが「農業」でした。オランダにある肥沃な土地を活かし、季節にとらわれず農作物を栽培できる技術、即ち温室での園芸を発展させました。温室を建てると、作物にとって最適な環境を維持することができ、同じ面積でも最高の生産量を得ることができます。例えば、米を育てる、玉ねぎを育てる場合にしても、生産できる季節は限られてくる。しかし、温室を建てることによってオランダでは四季を通じていつでも米や玉ねぎなどを生産することができる。このようにして、私達は素晴らしい結果をもたらす農業システムを構築しています。そして、これが私達が世界の他の国々に多くのものを輸出する農業大国たる所以です。

ー オランダはサステナビリティ(持続可能性)や治水(水管理)へのアプローチで有名です。日本がそこから学べる教訓は何でしょうか?

最も大切なのは、「直線型」から「循環型」へ移ることです。直線型とは、資源を取り、使い、捨てるサイクルです。これをやめて、はじめから“再利用する前提で設計する”循環型へ移行すべきです。再利用するなら、接着したり溶接したり、分解不可能な作り方はしません。実際、私たちのパビリオンは、すべて分解可能なネジやボルトで作りました。デザインそのものの考え方を変えること、それが日本へ伝えたい大きな教訓です。

オランダは水害などに苦しみながらも、解決策を考え、行動し、「循環型社会」を実現させていることが分かりました。 日本とオランダは長いつながりがあり、私たちはオランダからとても良いことを学んでいることが分かりました。この両国の関係をより一層この先も強めていくことの大切さを実感しました

ー 大阪万博のオランダパビリオンにはたくさんのミッフィーがいましたが、実際、オランダ国内でミッフィーはどのくらい人気があるのですか?

ミッフィーはオランダでも非常に愛されていますが、日本での人気はそれを上回るかもしれません。その証拠に、生まれ故郷ユトレヒトにある「ミッフィーミュージアム」では、オランダ語と英語に並んで、なんと日本語の案内表記もあるほどです。

今回の万博で、ミッフィーは単なる可愛いマスコットではなく、「キッズ・アンバサダー」として、重要な役割を果たしました。難しい社会課題を扱う展示に「楽しさ」をプラスし、次世代を担う子供たちに内容を分かりやすく伝えるのです。

特に忘れられないのが、交通機関のトラブルで「オールナイト万博」となった夜のことです。避難場所としてオランダ館を開放したところ、深夜2時半にもかかわらず、館内のミッフィー像の前には300メートルもの長い行列ができました。不安な状況下でも、皆さんが紙の耳をつけて写真を撮り、心からの笑顔を見せてくれた瞬間、ミッフィーが持つ「人を癒やし、楽しませる力」を強く実感しました。

オランダパビリオンにもいた!

総領事は、この時の日本人の冷静さと助け合いの精神に感動したと述べ、ミッフィーがその一夜を忘れられない体験に変えるのに重要な役割を果たしたと結論付けています。

 

社会、文化、ライフスタイルについて

ー オランダは(ユニセフの調査などで)精神的幸福度で1位、身体的健康で9位、スキルで3位にランクインしています。そのため「世界一子どもが幸せな国」というイメージがありますが、これはどのようにして達成されているのでしょうか?

そうですね。例えば、教育の側面で言うと、日本の小中学校以降の試験のプレッシャーは非常に厳しく、親御さんを含め皆さんがストレスを感じていると聞きます。次のステージに進むために常に試験があり、これは日本社会の厳しい規律と結びついていると感じます。そして、日本では一つの答えが正しいと考えられていますが、オランダでは独立した思考が大切にされています。そして、家庭内では、親子対等でいることがオランダでは大切にされており、責任は伴いますが、子どもを一人の自立した人間として扱っています。こうした環境で育まれる自立心や新しい発想は、将来仕事をする際にも役立ちます。一人ひとりが異なる視点を持ち、効率的に働くことで、ワークライフバランスが確立され、社会全体のストレス軽減にもつながっています。これこそが、子どもたちの幸せを実現している鍵だと思います。

ー オランダは自転車大国として知られています。なぜこれほど自転車が一般的になったのでしょうか?

私たちは人口よりも自転車の数のほうが多いんです!あそこにも一台あります。(笑) 人気の大きな理由の一つは簡単だからです。オランダはとても平坦な国です。パンケーキみたいに、完全に平らなんです。唯一の敵は前後から吹く風くらいでしょうか。でも基本的には移動もしやすく、自転車に乗りやすい。車は渋滞も多くお金もかかりますが、自転車は健康的で、しかも早く目的地に着けます。

また、オランダ人にとって自転車は『メンタリティ(考え方)』そのものです。子供が最初に学ぶことの一つが自転車の乗り方で、幼い頃から生活に深く根付いています。そして、それを支える『インフラ』の存在も欠かせません。車道と完全に分かれた専用レーンが整備されているため、日本よりもずっと安全です。

私たちはヘルメットをしません。なぜなら、ヘルメットをかぶると無敵だと思ってしまうと考えているからです。ヘルメットがなければ、自分がリスクの中にいることを意識し、より慎重に運転します。大切なのは、個人の装備よりも『車が自転車に近づけない安全な仕組み』を作ること。すべては文化の違いから来ているのです。

 

ー オランダの人はワーク・ライフ・バランスを大切にしていると聞きました。日本では「週休2日」が一般的ですが、オランダの人たちは通常どのような働き方(ワークスタイル)をしているのでしょうか?

私たちオランダ人は週に4日、もしくは4日と半日働くというのが一般的で、特にもし幼い子供がいる場合はなおさらです。かつては母親だけが休職、または週に2日ほどパートで働くということが多かったですが、今では父親と母親ともに少しだけ働く時間を減らすというのがより一般的になっています。ですので、近頃は母親も父親も週4日働き、残りの時間子供は保育所に行く、そのような形が普及しているでしょう。これについては、父親と母親の間でなされる”家庭生活と仕事をどう両立させるか”といった議論のようなものです。

ー 職場でもそうであり、もし同僚たちと働くなら、彼らと話し合う機会が生まれます。

労働時間については、私は周りの人が4日働いていても、5日働いていても構いません。契約書に書かれた時間数を4日間で働けるのなら、そうしてみましょう!私が考えるに、ワークライフバランスの最も重要な部分は、あなたが自分の仕事生活に責任を持っているなら、いつどのように働くかを決めるのは自分自身だと思うことです。そうすることで、仕事中と私生活がそれほど変わらないと感じやすくなります。幸せを感じ、快適に感じ、同僚達と良い関係を築き、そこで働くことが好き。そのような気持ちがあれば、「ああ、私は今仕事をしていてとても大変。しかし、家ではとても幸せ」などと考えにくくなるでしょう。なぜかって?家でも職場でも、あなたは幸せであるべきなのです。そしてそれはそれほど難しいことではないのです。

オランダでは週休3日制が一般的であり、子育てのために母親だけが休むというかつての慣習も、父親と母親のどちらもが少し働く時間数を減らし、残りの時間子供は保育所に行く、という形に変わってきているようです。特に他者の働き方をあまり気にしていないという点で日本人の感覚とは違いがあり、他者がどれくらい働き、どのように働いているかを気にしたり、それに自分の働き方を合わせるのではなく、働き方を決めるのは自分自身であるという考え方を、オランダの人々は持っているようでした。”家でも職場でも幸せであるべき”という総領事の言葉は全くその通りであり、それぞれがそれぞれの働き方を確立することで、仕事中と私生活がそれほど変わらないと感じること、これがワークライフバランスの重要なポイントだと学びました。

 

まとめ

ミッフィーやチューリップ、風車のイメージが強かったオランダですが、今回のインタビューを通して、その奥にある多種多様な側面を知ることができました。

総領事と同じ円卓を囲んでお話を伺うなかで、地球規模の厳しい課題に直面しながらも、常に前向きな意味を見出し、ユーモアを交えながら語ってくださるカウパース総領事のお姿がとても印象的でした。その明るく力強い言葉に触れ、私たちも未来に向けて大きな勇気をいただきました。

「Common Ground(共通の土台)」の精神が詰まったオランダ館。このパビリオンが淡路島へやってくる日が、今から待ち遠しくてなりません。

 

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レポート:

AIE国際高等学校 学生記者 (順不同)

近藤 環希  Tamaki Kondo

渡邊 礼夢  Remon Watanabe

北川 蒼士  Soshi Kitagawa

友田 龍太郎 Ryutaro Tomoda

黒川 稜央  Rio Kurokawa

近藤 佑樹  Yuki Kondo

武田 宙緯  Yui Takeda

大下 真央  Mao Oshita

福多 苗   Nae Fukuda

髙橋 知華  Chika Takahashi

岩見 真歩  Maho Iwami