学生記者が大使館に聞いてみた!Vol.6 - レバノン共和国大使館 -

レポート
Baalbek, Temple of Bacchus

レバノンは東に地中海を臨む中東の国。面積はわずか10,452平方キロメートル。日本の岐阜県よりもやや小さいくらいの大きさです。古代より海洋民族のフェニキア人が居住し、外国との交易が盛んでした。一般的にアラブの国として知られていますが、ローマ帝国との繋がりもあったことからキリスト教徒も多い国です。また国の人口(約610万人)の2倍のレバノン人がディアスポラ(離散)で国外で生活し、世界各地で活躍しています。レバノンについてもっと知りたい!ということで、私たち学生記者はレバノン大使館の経済アタッシェ、バシール・ブラーシド(Bachir Bou Rached)さんにいろいろ聞いてみました。(取材日:2021年12月1日)

フェニキア人の都市国家 ティルス(バシールさんのスライドから)

 

■レバノン杉、そして杉からできた香水

これはレバノンの国旗です。そしてこの国旗にもあるように、レバノンは“杉”で有名です。

レバノン共和国の国旗

杉と聞いて記憶に新しいのは、先日開催されていた東京2020オリンピックの会場が日本各地の杉を用いて建設されたことです。日本の国立競技場での使用例のように、レバノンでは、杉がどのように使用されているのか、加工品や観光としてはどのように扱われているのか聞いてみました。

杉はレバノンの人々にとってシンボルであり、「神の杉」「永遠の木」とも呼ばれることがあるようです。およそ3000年前は、レバノンに杉はほとんど存在していなかったのですが、現在はレバノン北方が杉で覆われ、森が形成されるまで広がりました。日本をはじめ世界各地にも、レバノンに由来した「レバノンスギ」という品種があるそうです。日本がこんなにも身近にレバノンとの関わりがあることに驚きです。

また、杉のとても優美な香りを生かし、香水にも利用されます。香水と聞くと、原料も色鮮やかな花などを用いたフローラルなものが多いように考えがちですが、杉も用いたものがあることを初めて知りました。本場で採れた杉の香水を、現地で、お土産品として選ぶのも素敵ですね。

そして、お土産といえば観光地ですよね。レバノンに訪れたら必ず足を運ぶべきスポット・名所はどこだか気になりませんか?日本の場合、和の風情を存分に感じられる京都を海外旅行者にお勧めしますが、レバノンにもレバノンを感じられる場所はあるのでしょうか?

バシールさんの答えはこうです。

・BEIRUT Downtown (building)/ベイルートダウンタウン

・QUADISHA Hooley Valley/カーディシャ渓谷(世界遺産)

・BAAKBECK Majestic Roman Temple/バールベック神殿(世界遺産)

・TYR Phoenician City/ティルス(世界遺産)

・BYBLOS oldest inhabited city in the world/ビブロス(世界遺産)

・ANJAR Islamic ruins/アンジャル遺跡(イスラム都市の遺跡、世界遺産)

ユネスコの世界遺産に登録されているバールベック神殿

歴史的建造物がそのままの形で保管されている場所が多いのが特徴です。日本で言うなら原爆ドームのような、その空間だけ時が止まっているかのように建造物が貴重な姿で残っている遺産が多く見られます。

中東三大遺跡の一つでもあるバールベック神殿では、ミュージックフェスティバルやオーケストラの演奏も行われます。世界遺産の中で聞くオーケストラ・若いミュージシャンの演奏はホールでは味わうことができない、ましてや日本では体験することのできない素晴らしいものですね。

バールベック神殿での音楽イベントの様子(レバノン共和国大使館提供)

この神殿の最大の特徴は建造物の大きさです。約3000年も前に、どこから石材を調達し、運搬、組み立てたのか?今でも謎が多く残される建物です。大きな建築でありながらも、細かい装飾も施されていて当時の職人の技術がいかに発達していたのかをうかがうことができます。(黒澤)

 

■たくさんの民族が住んでいるレバノン。クリスマスはあるの…?!

12月といえばクリスマス!

日本ではツリーが飾られたり、イルミネーションが点灯したりと、街並みがクリスマス一色になりますよね。クリスマスと言えばキリスト教のお祭りですが、多民族国家レバノンにクリスマスはあるのでしょうか。

クリスマスシーズンのレバノンの街角

クリスマスのイルミネーション

ーレバノンはクリスマスを12月にお祝いするのですか?

 「はい。日本と同じように12月にお祝いします。それは、レバノン共和国の総人口の45%、また大統領と国家元首がキリスト教徒(ほとんどがカトリック教徒)だからです。レバノンでは正教会の人も12月にクリスマスをお祝いします。なぜなら国のカトリックが一番大きなコミュニティだからです。多数派に従って皆が一緒にお祝いします。またイスラム教徒の人々もクリスマスをお祝いするのですよ」

多民族国家レバノンでも、私たち日本と同じようにクリスマスを迎えるのですね。イスラム教徒の人々もクリスマスをお祝いするとは 知りませんでした!

ー私は以前、レバノンでは1月7日にもクリスマスを祝う人々がいると聞いたことがあります。

「はい、その通りです。大昔にトルコに迫害されて逃げてきた6万人のアルメニア系のレバノン人、そしてロシア系レバノン人は、1月7日にクリスマスをお祝いします」

レバノンでは、12月以外にもクリスマスが訪れるのですね!こちらは知らなかった方も多いのではないでしょうか。たくさんの民族がいるからこそ、クリスマスがより魅力あふれる行事になっているのですね。

ークリスマスの街並みはどうなっているのでしょうか?

「ストリードパレードやクリスマスマーケットの開催やイルミネーションの点灯、子どもたちはチョコレートを食べるなど、クリスマスムードが漂います。またクリスチャンの人々は、12月24日の夜中から教会へ出かけて、25日の朝を迎えるのが伝統的なクリスマスの祝い方です」

そして次の写真はバシールさんが見せてくださったのは、豪華な飾り付けが施されたショッピングモールの様子。キラキラとしていてとても綺麗です!

遠く離れていても、世界のどこかで同じ行事をお祝いしている。当然かもしれませんが、とても不思議なことだと思いませんか?クリスマスに限らず、レバノンの行事をぜひ覗いてみてくださいね。(林)

ショッピングモールのクリスマスの装飾(レバノン共和国大使館提供)

■多くの食が楽しめる国、レバノン

―レバノンには200軒以上の日本食レストランがあり、寿司がとても人気だという話を聞きました。レバノンではどのような寿司が食べられているのでしょうか?

「レバノンでは、寿司はとても有名です。特に、アメリカ風のカリフォルニアロールなどが食べられています。また食文化に関して言えば、レバノンの料理は健康的なことで世界的に有名です。日本の料理も多く取り入れており、カリフォルニアロールやカリフォルニア流の刺身などがあります。主に、マグロ、鮭、鯛などを提供しています。

新鮮な魚介類が獲れるレバノンでは寿司も人気(レバノン共和国大使館提供)

レバノンは海に面しているため海の幸に恵まれ、この他にもさばやうなぎなどが獲れます。最近では、ラーメンも食べられています。またレバノンには日本食のレストランがあり、「みつや」という有名なレストランには日本人のシェフがいます。2年前には焼き肉屋もできました。

そして、レバノンでは魚介類は刺身で提供されます。レバノン料理は主に野菜、オリーブオイル、レモン果汁、塩が基になっており、日本のように醤油をベースとした料理ではありません」

レバノンの刺身は、醤油ではなく 塩、レモン、オリーブオイルで食すのがスタンダード(レバノン共和国大使館提供)

レバノンに日本人の料理人がいることにも驚きましたが、焼き肉屋があるのはびっくりです!ぜひ一度食べてみたいですね…

―レバノンは多民族国家なので、食文化も多様性に富んでいると思います。レバノン料理以外では、どのような料理が食べられているのでしょうか?

「レバノンでは、伝統的なレバノン料理だけでなく、様々な国の食を楽しむことができるのです。約300年前、ブラジル、アメリカ、フランス、イタリアなどから多くの食文化がレバノンに持ち込まれました。そのため、現在のレバノンではフレンチ、イタリアン、スペイン料理、ファーストフード、ブラジル料理、日本食、中華、インド料理、タイ料理など様々なジャンルのレストランが存在します」

レバノンでは、様々なジャンルの料理が楽しめそうです!レバノンに行った際には、ぜひ様々な食を堪能することをお勧めします!(須永)

伝統料理の他、世界各地に住むレバノン人が持ち込んだ様々な料理が楽しめる

 

■レバノンの流行と国民性

続いて、レバノンにおける流行や人々の国民性について紹介します。レバノンについてより一層詳しくなれる情報を深掘りしました!

―はじめに、レバノンの流行についてお尋ねします。レバノンの流行にはどのような特徴がありますか?

「レバノンでは、主にファッションや音楽、美容、またメディア、エンターテインメント等の分野で様々な流行が見られます。まずレバノンの流行における大きな特徴は、西欧諸国からの影響を強く受けていることです。レバノンの公用語はアラビア語ですが、人々は英語、フランス語、アラビア語の3カ国語を話します。そのため言語の壁を越え、他国の文化や考えを容易に理解することが出来ます。また多くのレバノン人が国境を越え多様な国と地域に住んでいるという特徴もあるので、西欧諸国に限らずとも様々な国からの影響を受けやすいという特徴があります」

人々が3ヶ国語を話せるというのは日本との大きな相違点であり、驚きました。近隣諸国の壁を越えた文化交流が盛んなところは大変魅力的ですね。レバノンに行けば、世界中の文化を体験することが叶うかもしれませんね!

レバノンの国民はアラビア語、英語の他、フランス語も堪能だ(写真は「中東のパリ」首都ベイルート)

―レバノンには美男美女が多いと聞きますが、世界で活躍している俳優や歌手、モデルについて教えてください。

「レバノン人には様々な分野で世界的に活躍している人が沢山います。例えば、ヒット曲”Waka Waka”や個性的なダンスで有名な、シンガーソングライターのシャキーラ、俳優のサルマ・ハエック, 映画「アバター」にも出演した俳優のゾーイ・サルダナはレバノン人の祖先がいます。また歌手のカール・ウルフやマサリ、モデルのローラ・グラウィーやジェシカ・カハワティも国籍こそ異なりますが、レバノン系として世界で活躍しています。俳優で映画監督ジョージ・クルーニーの妻であるアマル・クルーニーもレバノン人です」

レバノン人は外見だけでなく、その個性や才能も活かして世界で活躍されているのですね。

エンターテインメントの世界では多くのレバノン人が活躍

―最後に、レバノンは日本から遠く、レバノンの事を知らない人も多いと思いますが、レバノンを一言で表現するとしたらどのような表現がふさわしいですか?またレバノンと聞いて人々は何を連想するでしょうか?

「先に述べたように、レバノン人は3カ国語を話します。レバノン人は挨拶をする際に“Hi”(こんにちは)“حالك؟”(keef halik = 調子はどうですか)“Ça va”(元気ですか)と3カ国語を使って挨拶する、というジョークがあるほどです。レバノンに住む人々は多様な言語を話し、同時に他文化理解に優れていることから、異なる意見を理解し聞き入れることに優れています。また、日本人と異なり、個人主義の傾向もあります。

人々がレバノンと聞いたとき、内乱や紛争を連想することも少なくありません。しかし本来、レバノンは大変平和な場所なのです。キリスト教徒とイスラム教徒が互いを尊重し平和的に共存しています。紛争や内乱といったものは全て他の国によるもので、紛争が起る度にレバノンに住む人々は自由を失いながらも必死に困難に立ち向かってきました。ローマ教皇のヨハネス・パウロ二世はレバノンの人々が自由を取り戻していく様子を、世界に向けたメッセージであるとし、人々は教訓として受け取るべきだと表現しました。レバノン人はは美しい自然を尊重し、おもてなしの心をもって人々を歓迎します。そして皆生きる喜びと自由を大切にしており、これらはレバノン人の国民性を象徴しているのです」

実は国内には平和的な場所も少なくない(写真はレバノン山脈とマロン派カトリック教会)

これまで数々の困難に打ち勝ってきたレバノン。自由は当たり前に存在するものではないのだ、というメッセージが心に深く響きます。レバノンの人々のおもてなしの心や自然を慈しむ心は日本と相通じるものがあり、地図の上では離れていても親近感を覚えます。彼らの美しい人生観は生きる上で大切なことを教えてくれます。(十河)

 

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レポート:IAC学生記者団 レバノン共和国大使館取材チーム

レバノン共和国大使館のバシールさん、国際芸術家センター理事と共に

(五十音順)

黒澤莉沙子(くろさわ りさこ):実践女子大学 2年生。多くの方々のサポートにより、今回の取材をすることができました。貴重な体験をさせていただいたことに感謝いたします。将来は航空系などの英語力を活かした職業に就きたいと思っています。

須永啓太(すなが けいた):日本大学 3年生。今回はこのような機会を用意してくださり、ありがとうございました。コロナ拡大により留学ができない中で、このような経験が出来たことを非常に嬉しく思います。将来は世界を一周して、さまざまな食を堪能したいです。

十河桃梨(そごう ももな):学習院大学 2年生。高校時代は3ヶ国へ留学しました。世界遺産とクラシック音楽が大好きです。

林希菜里(はやし きなり):成蹊大学 3年生。コロナがお落ち着いたら、海外のミュージカルやコンサートに行くのが夢!